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腎性貧血治療の展望 ~鉄利用・鉄吸収の最適化~ 東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科 准教授横山啓太郎先生 東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科/血液浄化療法部 教授南学正臣先生

腎性貧血治療のガイドライン(GL)における鉄補充の基準については、前向き介入試験による臨床研究がほとんどなく、観察研究に基づいて議論されているため、考え方が収束せず、各国で差異がみられる。一方で、従来は吸収効率が低いとされた経口投与による鉄補充の有用性が見直されている。さらに、新たな腎性貧血治療薬の開発も進められている。

本セミナーでは「腎性貧血治療の展望」と題し、鉄補充療法に関する各国GLの相違点や、鉄を有効成分とする経口リン吸着薬であるクエン酸第二鉄水和物(製品名:リオナ® 錠250mg)のリン代謝・鉄代謝に及ぼす影響、さらにエリスロポエチン(EPO)産生のメカニズムを標的とした新たな貧血治療薬への期待などについて、東京大学医学部附属病院の南学正臣先生にご解説いただいた。

各国の腎性貧血治療のガイドラインにおける鉄補充の基準

腎性貧血治療においては、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)の適切な投与に加え、造血に必要な鉄の補充が非常に重要である。しかし、鉄補充に対する考え方には各国で差異がみられる。例えば、KDIGO(Kidney Disease:Improving Global Outcomes)は2012 年のGL1)でトランスフェリン飽和度(TSAT)30%以下、および血清フェリチン値500ng/mL 以下の患者に対して鉄補充療法を提案した。これに対し、K/DOQI(Kidney Disease Outcomes Quality Initiative)やカナダ腎臓学会のコメンタリーでは、それぞれ「血清フェリチン値とTSAT の上限を設定するには、エビデンスが不十分であり、同意できない」との見解が示されている2)3)。このように諸外国の見解が異なる背景には、鉄補充療法について前向きの介入試験を行った臨床研究がほとんど存在せず、観察研究を基に議論を行っていることがあげられる。

日本の現状としては、約90%の透析患者の血清フェリチン値は300ng/mL 未満であり4)、諸外国に比して圧倒的に低いレベルで管理されている。日本の透析患者の予後が非常に良いということは、全世界的に知られており、一つの可能性として血清フェリチン値が低く保たれていることとの関連が指摘されている。

血液透析患者を対象としたNishinomiya studyでは、血清フェリチン値のカットオフ値を100ng/mLとすると、100ng/mL より高いと死亡リスクが高まると報告されている5)。また、TRAP studyでは、血清フェリチン値100ng/mLを上下すると予後不良と関係し、また100ng/mLより高いと予後不良と相関すると報告されている6)。しかし、これらはいずれも観察研究であり、介入による有益性を証明しているわけではない。

「血清フェリチン値が低い方が生命予後は良い」との見解に一石を投じる台湾の疫学データ

台湾のナショナルデータベースの解析によると、台湾では透析患者の約60%が血清フェリチン値300~800ng/mLであるにもかかわらず(図1)7)、台湾の透析患者の5 年生存率は欧米に比して圧倒的に高く、日本の透析患者とほぼ同程度となっている。また、台湾の保存期慢性腎臓病(CKD)stage G5 の患者を対象とした解析では、鉄補充群は補充しなかった群と比較して生存率が高く、入院率が低いことが報告されており、鉄補充が予後を改善する可能性が示唆される8)。台湾のナショナルデータベースは信頼性が高く、人種的にも日本人と近縁であることを考慮すれば、日本人にも外挿できる観察である。

図1 台湾の血液透析患者における貧血管理(海外データ)

このようなことから、日本透析医学会より公表された「2015年版 日本透析医学会 慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」9)では、「血清フェリチン値が300ng/mL 以上となる鉄補充療法は推奨しない」と記載されているが、推奨度は2 Dとなっている。