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透析患者のリン,カルシウム,PTHの見方・考え方

リンは生体に必須だが,蓄積すると生命予後が悪化

リンは窒素、カリウムとともに植物の3大栄養素の1つである。農作物においては、土壌中のリンが豊富なほど良い実がなるため、そこに都市が栄えたとの記録もある。

ヒトにおいても、リンは骨・歯の構成要素や細胞膜の成分として、またエネルギー代謝の担い手として、生体の形態や機能の維持に必須の元素である。通常、リンは食物中から摂取され、1日のリン摂取量を1,000mgとした場合、腸管から吸収され約650mgが尿中へ排泄される。残りの約350mgが便中へ排泄される。

腎機能が正常であれば、リンの摂取量に関わらず、血清リン濃度は一定に保たれる。しかし、慢性腎不全(CKD)により腎機能が低下すると、リン排泄が低下し、やがて高リン血症を呈するようになる。血清リン濃度の上昇は、生命予後の悪化につながるさまざまな影響を及ぼすことが知られている。

腎機能低下初期ではFGF23やPTHにより代償的に血清リン濃度は保たれるが、
腎機能低下が進むと代償機構の破綻により高リン血症を呈する

図1 保存期における二次性副甲状腺機能亢進症の成り立ち

2011年にIsakovaらが実施したCKD患者約3,800名の検討によると、リンはeGFR 60mL/min/1.73m2付近から少しずつ蓄積し始め、30mL/min/1.73m2程度より大幅に上昇する1)。また同じ論文中で、実は血清リン濃度の上昇に先がけて、骨細胞から分泌されるホルモンfibroblast growth factor 23(線維芽細胞増殖因子:FGF23)がeGFR 60mL/min/1.73m2付近のまだ腎機能が十分残っているうちから有意に上昇することも報告された1)。FGF23は腎臓に作用してリン利尿を促すことで血清リン値を維持している。加えて活性型ビタミンD産生を抑制し、副甲状腺に作用してPTHの合成・分泌を抑制するなど、リン制御に深くかかわっている。

しかしその一方で、血中FGF23の上昇は左室肥大の頻度と相関し2)、保存期のCKD患者では心不全のリスクを高めるとの報告もある3)。さらに、透析導入のリスクにも影響を及ぼす4)など、透析患者の予後悪化因子の1つといわれている。

FGF23が作用を発現するにはKlothoと呼ばれる蛋白質の存在が不可欠である。Klothoとはギリシャ神話で生命を紡ぎだす女神という意味があり、長寿遺伝子としても知られている。腎機能低下やリン負荷によりその発現が低下する5)ことが報告されており、Klothoの発現低下は老化を促進するとの考えから腎性老化という言葉で表現されている。

このように腎機能低下に伴うリンの排泄低下において、初期にはFGF23やPTHの分泌亢進、活性型ビタミンDの産生低下により代償されるが、さらなる腎機能の低下に伴ってこれらの代償機構が破綻し、高リン血症・低カルシウム血症を伴う二次性副甲状腺機能亢進症が進行すると考えられる(図1)。

高リン血症に対する3つの治療戦略

CKD患者における高リン血症の治療戦略としては、十分な透析療法の実施、食事療法によるリン摂取制限、リン吸着薬投与の3 つが挙げられる。

透析によってリンを十分除去するには、長時間透析が有効である。一般的な週3回、1回4時間の血液透析ではリン除去能に限界があるものの、在宅透析患者などで週5 回、1回7 時間程度の透析を行い、リンを低値に保っている例もある。

食事療法によるリン摂取制限では、いかに蛋白摂取量を増やしながら血清リン濃度を低下させるかが重要となる。例えば、植物性タンパク質に含まれるリンは動物性に比べ体内への吸収率が低いが、食品添加物に含まれる無機リンは吸収率が高く、摂取を控えるべきである。また、食品ごとのリン/蛋白含有比を把握し、含有比の低い食品を選ぶことも有効である。

そして、リン吸着薬の投与であるが、わが国では炭酸カルシウム、セベラマー塩酸塩、ビキサロマー、炭酸ランタン水和物、そしてクエン酸第二鉄水和物(製品名:リオナ®錠250mg、以下リオナ)が使用可能である。その中で金属を主成分とするリン吸着薬は、一般的に金属の価数が大きいほどリン結合力が強い傾向にある。2014年5月に発売されたリオナは3価の鉄を含有するリン吸着薬であり、保存期患者を対象とした試験において、血清リン濃度低下に加え尿中リン排泄量も低下させ6)、腎臓へのリン負荷を軽減することが報告されている。

血清カルシウム濃度はアルブミン値の影響を受けるため、補正が必要

図2 測定された血清カルシウム濃度の意味

カルシウムは体内で炭素、水素、酸素、窒素に次いで5番目に多い元素で、99%が骨に存在する。細胞内のカルシウム濃度は血漿中の1万分の1と非常に少ないが、細胞内情報伝達において重要な役割を果たしている。血清カルシウム濃度はPTH、カルシトニン、活性型ビタミンD などの液性因子により調節されている。

血清中のカルシウムのうち約45%はアルブミンなどの蛋白と結合し、約50%が2価の陽イオンとして存在する。このイオン化カルシウムのみが生理作用を有するが、血液検査の値は血清中のすべてのカルシウムを測定しておりアルブミン値の影響を受けるため、血清カルシウム濃度を評価するにはPayneの式により補正カルシウム濃度を算出する必要がある(図2)。

血清カルシウム濃度低値ほど死亡リスクが低い

図3 透析患者のMBD治療とカルシウム負荷の変遷

透析患者では大動脈石灰化の程度が生存率に大きく関わるが、石灰化進展のリスク因子を調べた研究では、血清カルシウム高値(>9.5mg/dL)およびインタクトPTH(iPTH)高値(>300pg/mL)が、石灰化進展と有意な相関を示した7)。わが国の透析患者を対象としたMBD-5D研究においても、血清カルシウム濃度が高いほど死亡数は増加した8)

これらの結果から、生命予後の改善には血清リン濃度の管理が優先されるものの、血清カルシウム濃度も低値に維持することが重要であると周知された。慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドラインでは、血清補正カルシウムの管理目標値を8.4 ~10.0mg/dLとしている。ガイドラインの9分割図において、リンもカルシウムも管理目標値を達成した(正リン正カルシウム)群に比べ、正リン低カルシウム群で死亡のリスクが低い傾向にあること9)から、血清補正カルシウム濃度は管理目標値内であってもできるだけ負荷を避けることが望ましいと考えられる。

図3は透析患者のMBD治療とカルシウム負荷の変遷を示したものである。2008年のシナカルセト上市によって血清カルシウム濃度を上げることなくiPTHが抑制可能となった。これにより、以前よりも血清カルシウム濃度を低く維持できるようになり、生命予後への好影響が期待される。