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透析患者の愁訴に着目した透析治療~かゆみ対策を中心として~

はじめに

透析患者のかゆみ、イライラ、抑うつ、不眠などの愁訴は腎不全には当然の事象として医療従事者が見過ごしがちな症状である。しかし、実はこれらの愁訴は生命予後を占うサロゲートマーカーであり、透析の質を評価する重要な指標である。したがって、患者のさまざまな訴えをしっかりと把握し、透析治療の工夫による改善を検討する姿勢が求められる。今回は、かゆみについて取り上げ、われわれが実践している透析患者固有の問題点に焦点をあてたQOL評価システム『患者の訴えに基づいた透析治療:Patient Oriented Dialysis(通称:愛Pod計画)』について紹介し、かゆみの対策について言及する。

透析患者の愁訴と透析量

図1 透析はどれぐらいやってるの?

カナダでは、わが国の標準的な透析条件である週3回4時間(週12時間)の4倍の透析量にあたる、週6回8時間の夜間在宅頻回透析(週48時間)が広く行われている。

週6回8時間の透析条件が実際にどの程度の腎機能を代替するかを治療時間と透析治療のクレアチニンクリアランスから概算すると、クレアチニンクリアランス40mL/分に匹敵し、CKDステージ3の保存期腎不全患者と同じ状態になる(図1)。この透析方法によって献腎移植と遜色のない生存率が得られ、われわれが日常診療で対応に苦慮している不眠やイライラ、かゆみ、色素沈着などの愁訴がほとんど解消されるという報告がされている。

それに対して、わが国の週3回4時間という透析条件ではクレアチニンクリアランス10mL/分程度、正常腎機能の10%程度を代替していることにしかならず(図1)、合併症の進展や生命予後の悪化に加えて、さまざまな精神神経症状(不眠、イライラ、うつ、レストレスレッグなど)やそのほかの愁訴(そう痒症、色素沈着、穿通性皮膚炎、食欲不振、疲労感など)が認められる。このことからわれわれ医療従事者、透析患者は共にわが国で行われている透析療法が決して十分なものではなく、患者愁訴は「透析不足のサイン」と考えられることを認識すべきであろう。

「よい透析」の指標は何か?

図2 「よい透析」の指標はなにか?

医療従事者の使命は患者に元気で長生きしてもらうことであり、それを実現するためには「よい透析」を提供する必要がある。しかし、「よい透析」の指標について明確に提示できているものが実は意外にわかりづらいというのが現状である。

たとえば、わが国ではKt/Vが1.6以上で予後がよいと報告されている。しかし、その基準を満たしていても、患者が透析中に血圧が下がり嘔吐を催すような状態に置かれていては、いくらKt/Vや尿素の除去効率がよくても「よい透析」とは言いがたいであろう。Kt/vはあくまでも疫学的な指標に過ぎない。

図3 尿毒症症状は死亡リスクを高める

こうした視点から考えると、「よい治療・よい透析」とは、高い医療技術、治療効率の実現だけではなく、つらさが癒され楽になったと感じるような患者の満足度の高い透析が、実は指標として重要ではないかと考える(図2)。また、われわれは、透析不足による尿毒症によって起こるそう痒やそれにともなう抑うつ状態、不眠が生命予後悪化リスクとなる(図3)ことに注目して、患者愁訴そのものが透析治療の質を評価する重要な指標になり得るのではないかと考えた。言いかえれば、患者愁訴のない透析、いわゆる「よい透析」は、十分な栄養摂取と快適な日常生活を保障して、合併症のない長期生存に繋がるという考え方である。そこで、透析患者の愁訴を聴取することに主眼を置き、 透析条件の設定や透析液の清浄化、on-lineHDF療法の選択、透析スケジュールの再考などを行う重要性を提唱し、透析患者固有の問題点に焦点をあてたQOL評価システム『患者の主張に基づいた透析治療:Patient Oriented Dialysis(通称:愛Pod計画)』を開発し、2005年より稼働させた。